問題集をやっても解けない本当の理由
——最難関中学受験対応とされる塾の問題集を分析したら半分が分類ミスだった

ある最難関中学の受験に対応しているとされている塾に通うお子さんから「問題集を毎日こなしても成績が伸びない」というご相談があまりに多いため、その塾の分野別の問題集を1問ずつ分類してみました。結果、本来その分野で解くべき問題は全体の56%。残り44%は別の発想で解くべき問題が混入していました。「問題集をやっても解けない」のは、お子さんの能力ではなく、教材の構造に原因があります。

普段、他塾の教材は見ません。それでも今回、見ざるを得ませんでした

私たちは普段、他塾の教材にあまり興味がありません。私たちは私たちの方法で問題を作り、私たちの方法で生徒を育てます。よその教材を分析する時間があるなら、自分たちの教材を磨いた方がよほど建設的です。

それでも今回、分析することにしました。理由は、ある特定の塾に通うお子さんから「問題集を毎日やっているのに、解けるようにならない」という相談があまりに多かったからです。共通点が「同じ塾に通っていること」だった。これは個別の能力差では説明できない、構造的な何かがあると判断しました。

その塾は、中堅でも下位でもありません。最難関中学の受験に対応しているとされている塾です。在籍する講師も、解法を熟知した実力派の先生方が揃っています。

そもそも、問題集の中身は誰も検証していません

本題に入る前に、ひとつ前提を共有させてください。

中学受験の業界で流通している問題集は、ほぼすべて分野別の構成です。「○○算の問題集」「△△算の問題集」という構成が業界の標準形です。これ自体は自然なことです。

問題は、その「分野別」と銘打たれた中身が、本当にその分野に属する問題で揃っているか、という点です。ラベルと中身が一致しているかは、誰も検証していないのです。

業界の現状 問題集は分野別に並べられていますが、それぞれの問題が本当にその分野に属するかは、編集の段階で確認されないまま世に出ています。「○○算」というラベルだけで分類が決まり、中身は再検証されません。

その意味で、今回分析した塾は業界の中では明らかに上層に属します。中堅でも下位でもありません。最難関中学の受験に対応しているとされる塾です。在籍する講師も、解法を熟知した実力派の先生方が揃っています。それでも、教材レベルではこういうことが起きていました。

その上で、です。

本来その分野で解くべき問題は、56%しかありませんでした

分析に使った独自データベース

分析対象は、その塾のある特定の分野を扱った問題集です。これを判定するために、私たちは中学受験算数の問題分類データベースを独自に構築しています。

このデータベースは、業界で一般に使われる「○○算」というラベル分類ではなく、問題を解くために必要な思考の構造そのもので問題を整理したものです。最終的には5万問規模を目指しており、現在も拡張を続けています。この粒度で中学受験算数を分類しているデータベースは、私たちの知る限り業界に他に存在しません

このデータベースを使えば、ある問題集の中の1問1問について、「本来どう解くのが自然か」「ラベル通りの分野に属する問題なのか、別の発想を要する問題が紛れ込んでいないか」を、機械的に判定できます。

今回も、その塾の問題集を1問ずつ、このデータベースに照らして分類しました。

結果

1問ずつ「この問題は本来、何で解くのが自然か」を判定した結果はこうです。

本来の発想
割合
その問題集の分野で解くのが自然
56%
別の発想 A(時系列で追う)
25%
別の発想 B(表で整理する)
13%
別の発想 C(列挙して規則を見つける)
6%
合計
100%
56%
本来その分野で解くべき問題の割合

その問題集が掲げる分野で解くのが自然な問題は、56%にとどまります。残り44%は、本来であれば別の発想で解くべき問題です。問題タイプは確かに同じカテゴリに入りますが、自然な解き方はバラバラ。それが1冊の問題集に同居しています。

「解ける」と「自然に解ける」は違います

誤解のないように書いておきます。残り44%の問題は、その分野の解法で解けないわけではありません。提示されている解法でも解けます。けれども、それは「解ける」というだけのことです。

たとえば、AさんとBさんがおはじきをやりとりして、最終的にいくつずつ持っているか、というタイプの問題。その問題集が扱う分野の解法に翻訳することは可能です。けれども、自然な発想は「やりとりをそのまま追跡する」ことです。AさんとBさんがどう増減したかを順に書いていけば、それで終わります。

提示された解法に翻訳しようとすると、まず「やりとり」という時間軸を、別の表現に変換する作業が必要です。そこでつまずく子が出ます。変換できたとしても、その後の処理がなじまない。最終的に、自然な発想で解けば1分で済む問題に、5分も10分もかかります。

本質 解けるか解けないかではなく、その解法が問題に対して自然か不自然か。これが教材の質を決める軸です。

なぜ、最難関対応とされる塾の教材でこんなことが起きるのか

理由は単純です。解き方を本当に理解している人が、問題集を編集していない。これに尽きます。

本来、解き方による問題集の編集はこうあるべきです。1問ずつ問題文を読み、「この問題の本質的な発想は何か」「自然な解き方は何か」を判定する。同じ自然な解き方で解くべき問題を集めて、初めて1冊の問題集ができます。

けれども実際に行われているのは、こうです。過去の問題集や入試問題から「○○算」とラベルがついている問題を機械的に集めて並べる。その上に「解き方」のラベルを後から貼る。それで完成。問題文は読んでいません。読んでいたら、別の発想で解くべき問題を平然と入れることはありえないからです。

注目してほしいのは、これが業界の下層の塾の話ではないということです。今回の分析対象は、最難関中学の受験に対応しているとされている塾です。そこに在籍する講師は、業界全体を見渡してもかなり実力があります。それでも、教材レベルではこうなっています。

言い換えると、業界全体で見れば、これよりもさらに分類が雑な教材ばかりが流通しているということです。「解き方」での分類すら試みていない教材、つまり大多数の教材は、評価の俎上にすら載りません。

構造的な問題 教材を作る人と、実際に教える人が分離している。誰も全体を読んでいない。「○○算」というタグだけで分類が決まり、その分類が後の世代に引き継がれていく。問題の中身は、誰も再検証しません。これが最難関対応とされる塾でさえ起きている。

子どもに何が起きているか——暗記の連鎖

分類の雑な問題集をやらされた子どもは、次のような経験をします。

「○○の問題集」と書いてあるから、その解法で解こうとする。半分は解けます。半分は解けません。解けない問題の解説を見ると、無理やりその解法に当てはめた説明が書いてあります。子どもは「こういう問題は、こうやって変換して解くのだ」と覚えます。

そして次の問題に進みます。また同じことが起きます。「こういう問題は、こうやって…」という暗記項目が、雪だるま式に増えていきます。

本来であれば、「やりとりはやりとりで考える」「変化は表で整理する」「規則性は列挙して見つける」と、いくつかの発想の型を覚えるだけで済みます。けれども、すべての問題が同じラベルで来るために、発想を区別する機会が与えられません。代わりに「○○型の問題は、こう変換してこう解く」という個別パターンを、問題ごとに覚えていくことになります。

覚えきれなくなった瞬間、解けなくなります。これが、相談に来る親御さんが口を揃えて言う「問題集を毎日やっているのに、解けるようにならない」の正体です。お子さんの能力の問題ではありません。覚える必要のないことを覚えさせられているために、容量が破綻しているのです。

暗記で乗り切れる子と、思考で解くべき子は別です

誤解されないように書いておきますが、私は「暗記が悪い」と言っているのではありません。

暗記能力に優れた子もいます。そういう子は、雪だるま式に増える暗記項目を抱えながら、それでも入試まで乗り切ることができます。中学受験の合格までは、それで足ります。むしろ、思考力を磨くより暗記で押し切る方が効率がいいタイプの子も、確かに存在します。そういう子は、暗記で乗り切ればいいのです。

問題は、暗記でなく思考で解けるはずの子も、業界の構造によって暗記に追い込まれていることです。

問題文を読み、「これは何の問題か」を判断し、適切な発想を選ぶ。本来この力を持っている子は、雪だるま式の暗記など必要ありません。新しい問題が来ても、同じ判断プロセスで対応できます。一度身についた力は、応用が利きます。中学に進学したあとも、その力で数学を理解していけます。

けれども、問題集が問題タイプのラベルだけで構成されているために、その判断プロセスを使う機会が与えられません。「○○算」と言われた瞬間に、判断の余地はなく、ラベル通りの解法を当てはめる作業になります。思考で解けるはずの子が、暗記する子になっていく。この浪費が、業界全体で起きています。

暗記タイプの子と思考タイプの子は、別の指導が必要です。けれども現状、すべての子に対して「とにかく解法パターンを覚えなさい」という暗記指導が一律に行われています。本来の適性を見ずに、業界の構造に合わせて指導が画一化されているのです。

こうなった子の「後処理」が、どれほど大変か

もう一点、現場の実感としてお伝えします。

業界の構造によって暗記処理に追い込まれてしまった子を、思考で解けるように「戻す」作業が、どれほど大変か。これは現場で何度も見てきました。

一度「○○の問題は、こう変換してこう解く」という暗記パターンが大量に頭に入ってしまった子は、新しい問題を見たときに、まず暗記項目との照合作業から始めます。問題文を読んで意味を捉え、何の発想で解くべきかを判断する、という本来の思考プロセスを使いません。「過去にこういう問題を解いた、その時はこう変換した」という参照しか起きないのです。

これを矯正するには、まず暗記項目を一度すべて無効化する必要があります。「忘れていい」「むしろ忘れたほうがいい」と何度も伝えて、暗記参照のクセを止める。その上で、問題文を最初から読む訓練を入れ直す。新しい問題を、暗記照合ではなく、発想の判断で解く経験を積み直す。

矯正の負荷

これには、最低でも数ヶ月かかります。学年が上がれば上がるほど、暗記項目は増え、矯正にかかる時間も伸びます。6年生になってから来た場合、入試までに間に合わないことも珍しくありません。

私たちの方針

そして、もう一点はっきり申し上げておきます。仮に時間的に間に合うとしても、私たちはそういうお子さんを引き受けません

理由は、矯正段階のコストが大きすぎるからです。新規にゼロから思考を育てる場合と比べて、暗記で固まったものを一度ほどいて入れ直す作業には、その何倍もの労力がかかります。指導側の負荷だけの話ではありません。お子さん本人にとっても、すでに身についた処理を否定されながら新しい処理を覚え直す経験は、相当な精神的負担になります。「これまで信じてやってきたやり方が、根本から間違っていた」と認めるところから始めなければならないからです。

私たちの方針 暗記処理が完全に習慣化したお子さんは、たとえ入試まで時間があっても、お引き受けしません。矯正のコストが、新規育成のコストを大きく超えるためです。これは私たちの能力の問題ではなく、リソース配分の判断です。

これは私たちの能力不足ではなく、人間の認知の問題です。一度定着した処理パターンは、新しいパターンに上書きされにくい。暗記という処理が習慣化した脳に、思考という別の処理を後から入れるには、相当の時間と本人の意思が必要です。それを引き受けるリソースを、私たちは持っていません。

だからこそ、できるだけ早い段階で来てください、と申し上げています。低学年のうちなら、暗記の習慣がまだ強固ではありません。「問題文を読んで判断する」という最初の入り口を、自然に設定できます。学年が上がるほど、私たちが受け入れられる余地は狭くなります。

これが、業界の構造的な暗記主義が引き起こしている、最も深刻な被害です。子どもの認知の型が固まってしまったあとでは、もう戻せない。あるいは、戻せたとしても、戻すこと自体に膨大なコストがかかる。だから、戻すことを引き受ける塾も、ほとんど存在しません。私たちが大手塾を批判するのは、感情論ではありません。後処理の現場を見続けてきた、そして後処理を引き受けないと決めた立場からの、職業的な実感です。

「思考力」と口にしながら、思考していない親

ここまで業界の構造的問題を書いてきましたが、最も根本の問題は別のところにあります。親自身が思考停止していること、これがすべての始まりです。

親が口にしていること

中学受験を考える親御さんと話すと、ほぼ全員が「思考力を育てたい」と言います。「これからは暗記の時代じゃない」「考える力が大切」「思考力をつけてほしい」。耳にタコができるほど聞きます。

親が実際にしていること

その同じ親御さんが、塾を選ぶときに何をしているか。

合格実績のランキングを見ます。口コミサイトの評価を見ます。近所のお母さんが通わせている塾を選びます。問題集を自分で開いて見ません。カリキュラムの構成を、自分で精査しません。講師がどう教えているかを、自分で確かめません。

これは、親自身が暗記処理で塾選びをしている状態です。「合格実績が高い → 良い塾」「口コミがいい → 良い塾」というラベル参照だけで判断している。問題集を1ページずつ読んで「この教材は質が高いか」を自分で判断する作業を、誰もやっていません。

子どもには「考えなさい」と言いながら、親自身は考えていません。「思考力を育てたい」と言いながら、親自身が思考していません。この矛盾の上に、中学受験という巨大なシステムが乗っかっています

親の思考停止が、業界を温存する

構造の根 親が思考停止しているから、業界も思考停止のままで存続できます。問題集を読まずに編集する塾、解法を理解せずに教える講師、暗記主義の指導法——これらが温存されているのは、最終的に「親が選ぶときに中身を見ない」からです。中身を見られるなら、業界はもっと早く改善されています。

お子さんが暗記処理に追い込まれている状況は、業界の責任であると同時に、親の選択の結果でもあります。これは厳しい指摘ですが、現場で見ている事実です。

「思考力を育てたい」と本気で思うなら、まず親が思考してください。塾の名前ではなく、教材の中身を見てください。合格実績ではなく、指導の構造を確かめてください。それをやらずに、子どもにだけ思考力を求めるのは、論理として矛盾しています。子どもは親の言うことではなく、親のやることを見て育ちます。親が思考停止のまま塾を選ぶ姿を見て、子どもは「ラベルで判断する」という処理を学びます

業界の構造を変えるのも、最終的には親の選択です。中身を見て選ぶ親が増えれば、中身のない教材は淘汰されます。中身を見ない親が大多数である限り、業界はこのままです。

塾を選ぶ側が、見抜くしかありません

業界全体がこうである以上、塾を選ぶ側が見抜くしかありません。

ただし、この記事では「こういう塾を選びましょう」というチェックリストは提示しません

理由は単純です。チェックリストを公開すれば、その項目だけを表面的に真似する塾が必ず出ます。「うちは違います」「うちは本質的な指導をしています」と謳う塾が一斉に増えますが、中身が伴わない可能性のほうが高い。そして親御さんは今度は「チェックリストを満たす塾を探す」という、これまた中身を見ない選び方をするようになります。それでは、業界はますます表面的な競争に向かうだけです。結局それも『ラベル参照』ですから

ですから、ここから先は親御さん自身でやっていただくしかありません。問題集を実際に開いて、1問ずつ読んで、「この問題はなぜこのセクションにあるのか」を自分で考えてください。「この問題集に並んでいる問題は、本当に同じ発想で解くべきものなのか」を、自分の頭で確かめてください。

面倒な作業です。けれども、それをやらないこと自体が、業界を温存している原因です。

「合格実績」は過去のデータです。塾の方針が今どうなっているかは、それでは見えません。「在籍講師の経歴」も同じです。実力ある講師が在籍していても、教材の構造が雑であれば、その実力は発揮されません。今回の分析対象がまさにそれです。

お子さんが「問題集をやっても解けない」状況にあるなら、まず疑うべきはお子さんではなく、教材の方です。そして、その教材を選んだ親御さん自身の選択でもあります。お子さんは、自分が何の問題を解いているのかを教えてもらえていません。けれども、教えてくれない教材を選んだのは、親御さんです。

語り手:クリエートベース代表 / 執筆:Alba
Alba はクリエートベースの教育特化AIです。代表が現場で得た知見・分析・実体験を素材に、文章として整えています。事実関係はすべて代表が確認した上で公開しています。